まだ教員をしていたころ、不登校だったお子さん、不登校中のお子さんをうけもつことがたびたびありました。お子さんに会うことすらできない状態でスタートする年もありました。
年度はじめの面談で保護者の方とお話すると、とても悩んでいる様子の方もいれば、学校への不信感を募らせている方もいらっしゃいました。
でも、時間をかけて、子どもたちや保護者の方々とやりとりをしていく中で、わかったことがあります。それは、どんなに平静を保っている保護者の方でも、悩み苦しんでいるということ。不信感が募っている方は、これまでの学校とのやりとりで悲しい思いをしてきたということ。なかなか子どもに会わせようとしないのは、子どもの心を守るための行動であること。
「そんなこと、わかっているよ!」という先生もいることでしょう。
でも、もし今、クラスに不登校のお子さんがいて、対応に悩んでいる先生がいたら、ぜひ読んでみてください。きっと、何かが変わってくると思います。
不登校の子どもたち、そして保護者の方々への理解が深まるきっかけにしてもらえたら、うれしいです。
不登校の子ども理解① 先生は誰であっても「学校」に対して拒否反応を起こすことがある
はじめての面談や家庭訪問で「先生には会いたくありません」といわれることがあるかもしれません。でも、それは、その先生にいやな思いや感情があるわけではなく、ただ単に「学校」にかかわるものや人に拒否反応を起こしている場合も多くあります。
まだ出会って話してもいないのに「会いたくない」と言われたら、ショックを受ける先生もいるかもしれません。でも、それはあなたを嫌っているわけでもないし、何か恨みあるわけでもありません。
それだけ「学校」に対して悪いイメージや悲しい経験を抱えていると理解してあげてください。
「先生には会いたくない」と言っていた子が、時間をかけて距離を置きながらかかわっていくと、変わることもあります。以前、受け持ったお子さんが同じような状況でしたが、無理をせず、時間をかけて信頼関係を築いた結果、学年の途中からは会っても大丈夫になりました。(おしゃべりしたり、ハイタッチしたりするように)
焦らず、その子の気持ちを受け入れること。それが、一番はじめに心がけたいことです。
不登校の子ども理解② なかなか会えない子は会わない支援を
会えないと、支援はできない…と考えている先生もいるかもしれません。まったく、学校に来ない。家庭訪問もできない。そんな場合もあるでしょう。
それでも、一番大事なことは、かかわる機会は減っても、忘れずに支援をする体制をつくっておくこと。忙しい毎日、クラスにはたくさんの子どもたちがいる。そんな状況で、不登校の子がいると、どうしても目の前にいる子どもたちで手一杯な状況になるかと思います。
それでも、忘れないこと。教室にはいなくても、クラスの一員であるその子の存在を大切にすること。
それは、会えていなくても、不登校のお子さんや保護者の方に伝わるものです。何かあってもなくても、相談できる関係を築いておくことが、とても大切です。一人にしない。孤独にしない。担任ひとりではむずかしい場合は、学校全体で支援する方法を探すといいでしょう。児童支援担当の先生を中心に、チームでサポート体制を組めるといいですね。
不登校の子ども理解③ 行きたくても行けない状況だと理解した上で言葉かけを
不登校のお子さんの中には「学校を休める」というだけで、元気が復活する子もいます。その姿を見ると「そんなに元気なら学校に来れるのではないか…」と勘違いしてしまう先生もいるようです。
でも、その子が元気な状況でいられるのは「学校を休んでいる」からです。学校に行かなくてもいいと安心して、ようやく元気がとりもどせている。元気だからと無理やり学校に連れていけば、すぐに元気はなくなり、心も体も不安定になるでしょう。
学校に行きたくても行けない状況、ぎりぎりの状況を経て不登校になっている子がたくさんいます。それを理解した上で、言葉かけをしてほしいなと思います。
「がんばって、学校においでね」
「みんな待っているよ」
「早く学校に来てね」
よかれと思ってかけた言葉が、その子を傷つけることもあります。学校に行かなくては…とプレッシャーに感じる子もいます。
学校に来ることを前提とした言葉かけではなく、学校に来ても来なくても、その子の力になりたいという気持ちを伝えられるといいですね。または、学校とはいっさい関係のない話もおすすめです。その子がどんなことが好きなのかを知ること。自分の好きなことに興味を示してくれるのは、子どもにとってはうれしいことです。
不登校の子ども理解④ 親の不信感はこれまでの積み重ね
「不登校中の子に会いたいのに、会わせてもらえない」ということがあるかもしれません。一見、事実だけを見ると、保護者が「会わせようとしない」ととらえてしまいがちです。
でも、もし「会わせてもらえない」状況にあるとしたら、それはこれまでの積み重ねや、その子の現状として「会うことが子どもの負担になる」と判断したからだと考えられます。
親は、全力で子どもを守ろうとする。これ以上、子どもが傷つかないように、親が盾になっている。そんな状況で、先生がどうにかして会おうとすればどうなるでしょう。
保護者の気持ちはどんどん離れていきます。そして、本当は会いたかった子どもとの距離もどんどん長くなっていきます。信頼関係がまったく築けない状況では、子どもがいつか「学校に行きたい」と思ったとき、親が「行かせられない」と判断することにもつながりかねません。
信頼関係は築くのに時間がかかりますが、不信感を抱くのはあっという間。不登校の原因がどこにあるかは別としても、現状に不安や心配を募らせている保護者の方々はたくさんいます。その気持ちを汲み取ること、寄り添うことを忘れずに、対応してみてください。
不登校の子ども理解⑤ 子どもケアの前に大事な親とのコミュニケーション
さきほどの④と深くかかわりがありますが、子どもケアの前に親とのコミュニケーションがとても大切だと考えます。それは、今までお伝えしたように、すぐに子どもに会えるとは限らないからです。
保護者の方が学校を信頼していて、子どももそれほど拒否反応を示していない場合、家庭訪問や放課後登校、別室登校など、いろいろなかかわり方ができます。
一方で、子どもと会えない状況の場合には、まずは保護者の方とコミュニケーションをとっていくことが大切です。
はじめは、本音を話してはくれることはないでしょう。心配なこと、不安なことがあっても、相談しても平気という信頼関係がないと、心を開くことはありません。
少しずつ信頼関係を築き、不安なことや心配なこと、家にいる子の様子やかかわり方などを一緒に考えていく関係をめざす。
これを担任一人で行うのは、むずかしい場合もあります。担任との関係がうまく築けないのであれば、担任でなくてもかまいません。学校の誰かとつながっていること、学校に相談できる相手がいることが大切です。子どもも親も孤立しない支援体制を学校全体でつくれたらと思います。
不登校の子ども理解⑥ ゴール設定を間違えない
学校の教員といっても、ひとりひとり個性があり、考え方や教育観も違います。不登校の子に対しても、対応方法に違いがあってもおかしくありません。
ただ、個人の思いで行動したり、個人的な感覚で対応したりすると、不登校の子どもにとってよくない影響を与えることもあります。
学年、学校としてどう対応するのか、自分一人の考えではなく、チームとしても対応策を考えて行動することがとても大切です。その際、ゴール設定を間違えないこと。
以前、勤めていた学校で、ゴール設定を間違えた結果、保健室を居場所としていた子がまったく学校に来れなくなってしまったことがありました。ゴール設定を「教室に戻ること」と考えていた一人の先生の言葉かけがきっかけでした。
ちょっとした言葉や態度、考え方が子どもに伝わることがあります。ゴール設定をする際に、「誰のため」の視点がぬけると、せっかく積み重ねてきた信頼を一瞬で失うこともあり得るのです。
学校にいると、どうしても「ゴールは毎日学校(教室)に来ること」となりがちです。でも、本当にそうでしょうか。教室じゃなくてはダメなのか?毎日決められた時間学校にいなくてはダメなのか?毎日通わなくてはダメなのか?
その子にとって何がいいのかを真剣に考えること。それがゴール設定なのではないでしょうか。
【まとめ】不登校で悩んでいない親も子どもいない!
「不登校で休んでいる子どもが元気そうだ。親は学校への不信感を募らせていて、協力的ではない」
そんなふうに感じることがあるかもしれません。でも、それは一面的なもの。
不登校で休んでいるからこそ、元気をとりもどせているのかもしれないし、学校への不信感はそれまでの積み重ねであることが多い。子どもが学校に行っていないことを受け入れているのは、子どもを守るためであること。これまでに、どれだけ葛藤したか、もしくは今現在も葛藤中であることを学校に伝えている保護者は少ない。
学校側の立場から、ものごとの表面だけを見てしまうと、大きな誤解を生むことがあります。
不登校だから、子どもに会えないから、親が協力的ではないから、支援ができない…と考えている先生も少なからずいるようです。
でも、その奥深くにあるもの、悩み、葛藤する姿に目を向けたらどうでしょう。それでも、本当にできる支援はないのでしょうか。
不登校になって、悩んでいない子、親はいません!
不登校になる前も悩んでいたし、不登校を受けいれるまでも、ものすごい葛藤があったはずです。そして、今、現在、不登校中であっても、不安や心配はつきない。
それを理解した上で、不登校の子や親への支援の仕方を話し合ってほしい!と心から願います。学校が大変なことはよくよくわかっています。先生たちがどんなに多忙なのかも、自分自身が経験済み。でも、子どものためにできること、子どものためにやるべきことがあるなら、知恵を出し合い、時間をつくって、何かしたら動くべきだと思います。
学校を離れた今だからこそ、えらそうに言っていますが… 実際に子どもたちのために一生懸命考え行動してくれている先生がいることも知っています。
学校だけにお願いするのではなく、わたしもわたしができることをやっていきたい。学校の中や外という枠にとらわれず、地域の子どもたちが安心して学び、遊び、成長できる!そんな活動を広げていきたいと思っています。
子どもたちの笑顔を守りたい…ただそれだけです。